夏山シーズン前のトレーニング ~まずは原則のお話編~

個人的に少人数で登山をする場合(当店では少人数向けの山行案内を実施しております。)は、その個人の体力・技量に合わせてスケジュールを組んで登山をすれば良いので、さほどの問題は無いかもしれません。※それでも対応に限界はありますけど。
一方で、ツアーの時はそうはいきません。一定のタイムスケジュールを組んでいますので、それについて来れない登山者は登頂を諦めて途中で下山してもらうか、ピストンの時はその場で待機してもらう事になります。
せっかくお金を払って、スケジュールを押さえて、ウキウキした気分でツアーに参加したのに、このような事態になってしまっては非常に悲しいですよね・・・・
そのような事態を避けるため、ツアー参加の前にご自身の体力を知って、それに応じて準備(トレーニング)する事が大事だと思います。そうすれば、ツアーの行程を余裕をもってこなすことができ、周りの景観や匂いや音、ひいては登山そのものをより楽しめるようになるでしょう。
まず、登山遂行能力を伸ばすトレーニングの内容に入っていく前に、トレーニングをする際の大事なことを挙げておきます。これを知っておくと、なぜこのようなトレーニングをするのか、どういったトレーニング効果があるのかをより理解しやすいです。
それは『過負荷の原則』・『漸進性の原則』・『特異性の原則』です。これらはトレーニングの3原則と呼ばれるものですが、登山の為のトレーニングにおいても、これらを当てはめて実施した方が効率よく、より安全にトレーニングができます。
【過負荷の原則】
まず、『過負荷の原則』ですが、これは、ご本人がある程度キツイ(心肺的・肉体的に)と感じる負荷が必要であるということです。全く運動をしていない人であれば、どのような負荷でも最初は『過負荷』となりうるでしょうが、例えば、元々6kmを2時間でなんとか歩けるAさんが、トレーニングとして、6kmを3時間で歩いたとしても体力の向上は望めないでしょう。6km/3時間というペースは、Aさんにとって『過負荷』ではないからです。これを修正し、6kmを1時間50分で歩いたとしたら、トレーニング効果あり、ということになります。また7kmを2時間20分で歩いてみるというのも『過負荷』になりえます。歩くペース自体は変わっていませんが、距離が長くなっているので、総合的な負荷は増しています。
【漸進性の原則】
次に『漸進性の原則』ですが、これは負荷は少しずつ上げていく必要があるということです。『過負荷の原則』とも重なります。例えば6kmを2時間でなんとか歩けるAさんが、次に1時間40分で歩くというトレーニングをして、その次に1時間で歩くというトレーニングをしたらどうでしょうか。これはちょっと進めすぎな感じがします。まず、心肺機能に負荷がかかり過ぎて、途中でバテて歩ききれないかも知れません。もし、歩けたとしても、疲労がかなり溜まりますし、関節や骨に悪い影響を与える可能性があります。関節や骨の耐久力の向上は、体力の向上よりもやや遅れるからです。一方で、6kmを1時間50分というトレーニングメニューを変えずにずーっとこなし続けても、体力の向上はすぐに止まります。最初はきつかった6km/1時間50分のペースが体力の向上により段々楽になってしまうからです。楽になってしまった段階で、6km/1時間50分 というトレーニングは『過負荷』になりえません。少しずつ、無理のない範囲で徐々に負荷を増やしていくことが大事なのです。
【特異性の原則】
最後に『特異性の原則』です。これは、どういうことかというと、実際の競技動作により近い条件でトレーニングした方が効果が上がるという原則です。では、登山に特異的な条件とはなんなのでしょうか。主なものは3つあります。
まず1つ目は『地上で長い距離を一定のペースで歩く』ということです。2つ目は『荷物を背負う』ということです。3つ目は『登りと降り』があるということです。4つ目として『高所への適応』というのがありますが、これはトレーニングの実施自体が日常的に行えるものではないこと、コンディショニングやメディカル面など様々な要素が絡んでくるのでここでは割愛します。5つ目として、『クライミング技術』も挙げられますが、これもここでは割愛。
ここで例えば、日常的に水泳を行っているBさんがいたとします。Bさんは1回水泳に行ったら2kmを1時間で泳ぎます。これって日常的に水泳をしていない、水泳を習ったことがない人にとったら結構すごいことなのですけど、それでも水泳自体が登山に特異的な条件を全く満たしていないので、Bさんの登山遂行能力には疑問符が付き、同時に水泳は登山の為のトレーニングとしては不適当であると言えます。
登山に特異的な条件は先程挙げた通り、『地上で長い距離を一定のペースで歩く』・『荷物を背負う』・『登りと降り』となるのですが、このうち『登りと降り』は日常的に実施しにくい側面があります。坂道は住んでいる場所によってはあまりないかもしれませんし、あったとしても長い距離が稼げるかというハードルがあります。「短い距離でも何往復もすればいいじゃん」という方もいらっしゃるかもしれませんが、同じところを何往復もするのは面白くないですし、場合によっては変な人とみなされる可能性すらあります。
これらのことを考えると『登りと降り』を入れなければという考えはあまりベターではないかもしれません。トレーニングは続けやすさも非常に重要なファクターであるからです。登山に特異的な条件の3つのうち2つをカバーしておけばそれで十分です。というか3つ満たしていたらそれはすなわち、『登山』ですからね。
【まとめ】
今回はトレーニングの原則のお話でした。『過負荷の原則』・『漸進性の原則』・『特異性の原則』、それぞれについて説明していきました。これらの原則にあまりにも縛られ過ぎると、トレーニング自体の実施が難しくなるのですが、原則を知っておくことで、より安全で効率のよいトレーニング方法を選択することができると思います。次回は、今回の話を踏まえて、具体的にどのようなトレーニング計画を立てていくかの例を挙げてみたいと思います。
          
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